【止まったタクト~「1万人の第九」で起きた、前代未聞の“奇跡”】
011年12月4日(日)、大阪城ホールで開かれた「1万人の第九」。
それは例年とは明らかに違う、心が震える濃密な3時間でした。
冒頭、宮城県南三陸町の防災庁舎の廃墟が場内のスクリーンに映し出されます。
生中継の映像。
冬場の三陸地方特有の強風が激しくマイクを叩き、
ボコボコした音が生々しさを感じさせます。
そしてその廃墟の前から、自身も被災した福島の詩人・和合亮一さんが、
「高台へ」と題した自作の詩を朗読しました。
バックでは、佐渡さんが教えるスーパーキッズオーケストラの弦楽メンバーが、
「G線上のアリア」をゆっくりと奏でます。
(中略)
そして終盤の有名な「歓喜の歌」の大コーラスが始まる直前、異変が起きました。
佐渡さんが、身をかがめて動かなくなったのです…。
巨大なスクリーンに映っていた佐渡さんの表情。
それは、演奏中に、手を合わせて、祈る姿でした。
震える両手。何かをつぶやいている口元。
目は閉じ、神頼みをしているような所作。
タクト(指揮棒)は、佐渡さんの両手に挟まれて、動きません。
指揮者が指揮をしない…。
5秒、6秒、7秒…。まだ動かない。
この前代未聞の出来事に、それでも演奏は続きます。
クラシックの演奏会ではありえない、ざわめきがホールを覆いました。
それは驚きであると同時に、誰もが佐渡さんに導かれるように、
祈りを捧げた時間でもありました。